大学の物理がはじまって早い段階で「系」という概念がでてきます。
「系 = 自然界のうちで考察の対象としていま注目している部分のこと。」
などとよく説明されているアレです。
しかし、初めて聞いたとき、私にはこれが分からなかった。。。
「いま注目している」ってどういうこと?? 系以外(注目していない物)は無視していいってこと?? ?????…みたいな。
学生時代の自分をサポートするつもりで、「系」という概念についての私なりの理解を以下で説明します。あくまで私の理解です。
「系」というワードを「領域」と読み換える
まず「系」というワード自体が日常になじみが無さすぎます。
「領域」と読み換えましょう。大体意味はそれでも同じはずです。
(…用語に詳しい人からすると イヤ、駄目でしょ と思うかもしれませんが許してください!)
例
- ○○からなる系 → ○○からなる領域
- 系の外部からの熱 → 領域の外部からの熱
- 断熱系 → 断熱領域
- 極座標系 → 極座標領域
- 慣性系 → 慣性領域
⋮
以下の文章でも、「系」という言葉でピンとこなかったら「領域」と読み換えてみてくださいね。
「系」というワードは「何に注目するか」と「どんな観測のしかたを選ぶか」の2つの意味がある
物理の参考書を読んでいたり、授業を聞いていて「系」というワードが出てきたら、それは「何に注目するか」の意味で使われているか、「どんな観測のしかたを選ぶか」の意味で使われているかのどちらかだと思われます。(もしかしたら両方の意味を兼ねている場合もあるかもですが)
たとえば「2質点系」と言った場合は「何に注目するか」という意味での「系」です。
(2つの質点に注目している)
たとえば「直交座標系」と言った場合は「どんな観測のしかたを選ぶか」という意味での「系」です。
(直交座標で観測する)
見分ける方法は、これといって無いので文脈から推測するか、または具体的な「○○系」という単語ごとに、どちらの意味なのかを覚えておくしかないかもしれません。
(慣れるとすぐわかったりもしますけどね)
よく出てくる具体的な「○○系」を↓に挙げておきます。
①「何に注目するか」の意味の「系」
質点系 | 「質点」からなる系 |
2質点系 | 「2個の質点」からなる系 |
熱力学系 | 「熱力学で考察可能な物の」系 |
断熱系 | 「外部と断熱遮断された物の」系 |
孤立系 | 「外部から孤立した物の」 系 |
単に「系」という時 | (周囲の文脈で何に注目するのか説明される) |
上記の単語がでてきたら、ああ、この「系」は「何に注目するか」の意味なんだな~、とお考え下さい。
②「どんな観測のしかたを選ぶか」の意味の「系」
座標系 | 座標を使って観測する系 |
直交座標系 | 直交座標を使って観測する系 |
極座標系 | 極座標を使って観測する系 |
回転座標系 | 回転する座標を使って観測する系 |
静止系 | 静止している視点で観測する系 |
慣性系 | 慣性の法則が成り立つような視点で観測する系 |
上記の単語がでてきたら、ああ、この「系」は「どんな方法で観測するか」の意味なんだな~、とお考え下さい。
さらに、「系」というワードが出てきたときに思ってほしいことを以下に書きます。
「系」というワード =「いまから、これ以外は “外部” とひとくくりにします」という宣言
これはとくに上記の①の場合の「系」で強く意識されることです。
「系」についてまず知っておいてほしいのは、「系」という言葉がでてきた瞬間、”「系」と「外部」という区別が行われた” ことです。
当たり前だと思うかもしれませんが大事なことです。そして、
- 「系」の中は具体的な物や力について話をしますよ。
- 「外部」については「外部」という言葉でひとくくりにして話をしますね。
(= 個別の物や力は区別せず「外部から系へ加わる力」「外部へ流出する気体」というようにひとまとめにしますね)
ということがそれ以降の暗黙の了解となります。
系の「外部」はひとくくりにされるだけであって、決して存在しないわけではありません。
「外部」から系内の物体に働く力(= 外力)や「外部」から流入する気体、「外部」への仕事 など、外部との相互作用は普通に出てきますので間違えないようにしてください。
ただひとくくりにされるというだけです。
「系」というワードを使うのはそういう宣言といえます。
例文を見てみましょう。
3個の天体 (天体A, 天体B, 天体C)からなる系を考える。
万有引力によって天体Aには「天体Bからの引力 (\( \vec{F_B} \))」「天体Cからの引力 (\( \vec{F_C} \))」そして 「外力 (\( \vec{F_{外部}} \))」が働くので、合計すると天体Aに働く力 (\( \vec{F_{A全}} \))は、下記のように表せる。\( \vec{F_{A全}}=\vec{F_B}+\vec{F_C}+\vec{F_{外部}} \)
(ブログ主が作成した文です)
この文では、「系 = 天体A、天体B、天体C ですよ」ということを最初に宣言しています。
つまり「天体A、天体B、天体C については具体的に話をしますが、それ以外のまわりにある天体は全部 “外部” としてひとくくりにしますよ」と宣言しているのです。
実際、そのあとに続く文では「天体Bからの引力」「天体Cからの引力」(= 系の内部の天体からはたらく力)については個々に扱っていますが、
「それ以外の外部から働く力」については一緒くたにして「外力 (\( F_{外部} \))」とまとめています。
系のまわり (外部) にもいろいろな天体があるはずです。
それらの天体から天体Aにそれぞれの力が加わっているのですが、それらは足し合わせた「外力」という言葉で表現されます。
この最初の一文で、その「外力」を構成する個々の力について詳しく個々に見ることは基本的にないよ、という暗黙の了解を伝えています。
見る対象が同じでもどんな座標系で観測するかによってちがった「系」となる
これはとくに上記の②の場合の「系」で強く意識されることです。
たとえば地上から1mの高さで真横に速さ5m/s (5メートル毎秒)で運動している物体があるとします。
直交座標系で考えれば、この運動は
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l}
x=5t\\
y=1
\end{array} \right. \end{eqnarray}
と表せるでしょう。
一方で極座標系で観測してみましょう。(極座標については、高校で習いましたよね。覚えてない人のためにいつか記事書きたい。)
するとこの運動は
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l}
r^2=25t^2+1\\
\tan\theta=\displaystyle\frac{1}{5t}
\end{array} \right. \end{eqnarray}
と表せるでしょう。(高校の知識を使って確かめてみてね)
どんな座標系を選ぶかによって、運動の表し方が変わるわけです。さらに、
この移動する物体と同じ速度で平行移動している座標系で観測してみましょう。(そんな座標を考えてもいいんです! 物理は自由! )
するとこの運動は
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l}
x=0\\
y=1
\end{array} \right. \end{eqnarray}
と表せるでしょう。
\( x \)も\( y \)も定数です。
座標系の選び方によっては物体は静止して見えるわけです。
ちなみにこの物体を、1rad/s (1ラジアン毎秒)の速さで回転する回転極座標系で観測すると、
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l}
r^2=25t^2+1\\
\tan(\theta+t)=\displaystyle\frac{1}{5t}
\end{array} \right. \end{eqnarray}
と表せるでしょう。(動画はイメージ。)
対象 (今回の場合は、物体の運動) を座標系の選び方によっていろいろな表し方ができる。
ということを知っておいてください。
最後に例題
つぎの例文を見てください。
質点A, 質点B, 質点C からなる(A)3質点系がある。
(ブログ主が作成した文です)
質点Bは質点Aのまわりを等速円運動しているので、(B)平面極座標系を使って解析したい。
なおこの(C)系は(D)孤立系のため外力は働いていない。
問1. 下線 (A)~(D) の「系」という言葉はそれぞれ「何に注目するか」の意味と「どんな方法で観測するか」の意味のどちらとして使われているか。
問2. 次の文は正しいか。
ア. 例文の「質点A, 質点B, 質点C からなる3質点系」の外部には何も存在せず、真空しかない。
イ. 例文の「質点A, 質点B, 質点C からなる3質点系」を (B) の「平面極座標系」以外の座標系を使って解析することは不可能である。
まとめ
- 「系」というワードでピンとこなかったら「領域」と読み換える。
- 「系」というワードは「何に注目するか」と「どんな観測のしかたを選ぶか」の2つの意味がある。
- 「系」というワード =「いまから、これ以外は “外部” とひとくくりにします」という宣言。
- 見る対象が同じでもどんな座標系で観測するかによってちがった「系」となる。
以上です。読んでくれてありがとうございました。
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